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京都地方裁判所 昭和50年(ワ)321号 判決

原告

五十川繁次

右訴訟代理人

吉村修

被告

南海木工株式会社

右代表者

太田市太郎

右訴訟代理人

森川清一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、申立

(原告)

1、原被告間において別紙目録記載の土地(本件土地という)に対する賃料は昭和五〇年四月一日以降一月二六万五、〇〇〇円であることを確定する。

2、被告は原告に対し昭和五〇年四月一日以降毎月末日限り一三万円およびこれに対する各弁済期の翌日以降完済に至るまで年一割の割合による金員を支払え。

3、訴訟費用は被告の負担とする。

4、2項につき仮行宣言。

(被告)

主文同旨。

第二、主張

(原告)

一、訴外亡五十川正次郎は、昭和二八年八月一二日に、被告に対し本件土地をつぎの条件をもつて賃貸した。

賃貸期間 二〇年

賃料 一月一万四、五五〇円

賃料支払方法 毎月末日限り当月分を右訴外人方に持参または送金して支払う

目的 木造建物の敷地

二、右訴外人は、昭和四〇年三月九日に死亡し、原告が賃貸人の地位を承継した。本件土地の月額賃料の増額経緯はつぎのとおりである。

昭和四三年 六万五、〇〇〇円

昭和四六年 一〇万円

昭和四九年六月 一三万五、〇〇〇円

三、本件賃料は月額二六万五、〇〇〇円が相当である。

1、正常実質賃料

本件土地の昭和四九年七月一日の更地価格は二億三一万八、〇〇〇円である(一平方メートル一七万三、〇〇〇円。1,157,91×173,000)。昭和四九年度の固定資産税は一四万四、四二四円、都市計画税は五万一、一六六六円である。更地価格に期待利まわり年五%を乗じ、公租公課を加えると、年間正常賃料は一、〇二一万一、四九〇円(月額八五万〇、九五八円)となる(200,318,000×0.05+195,590)。

2、原告は、不動産鑑定士大島理一郎に対し本件土地の昭和四九年七月三一日現在の賃料鑑定を求めたところ、前記の本件賃貸借契約の内容および賃料増額の経緯などあらゆる条件を検討された結果、月額二六万五、〇〇〇円を適正賃料とする鑑定を得た。

四、そこで、原告は、昭和五〇年三月二〇日到達の内容証明郵便をもつて被告に対し四月一日以降の本件土地賃料を二六万五、〇〇〇円に増額する旨の意思表示をした。

五、よつて、原告は、被告との間で本件土地賃料が昭和五〇年四月一日以降月額二六万五、〇〇〇円であることを確定し、かつ、被告に対し、昭和五〇年四月一日以降毎月末日限り右二六万五、〇〇〇円と被告において支払つている一三万五、〇〇〇円との差額一三万円とこれに対する右各弁済期の翌日以降完済に至るまで借地法所定の年一割の割合による利息金の支払いを求める。

(被告)

一、原告主張の請求原因一、二、四項は認める。ただし、賃料増額経緯は、昭和四五年六万五、〇〇〇円、昭和四八年一〇万円、昭和四九年六月一三万五、〇〇〇円である。

二、同請求原因のうち、本件土地の昭和四九年固定資産税および都市計画税の各額と、原告主張の鑑定がなされたことは認めるが、その余は否認する。

第三、証拠〈略〉

理由

一原告主張の請求原因一、二、四項の事実と、本件土地の昭和四九年度固定資産税および都市計画税の各額、原告主張の鑑定がなされたことは当事者間に争いがない(ただし、賃料増額時期につき、六万五、〇〇〇円は昭和四三年、一〇万円は昭和四八年であると被告は主張)。

二借地法一二条によれば、地代が「土地に対する租税その他の公課の増額若くは土地の価格の値上り又は比隣の土地の地代若くは借賃に比較して不相当に至つたとき」、賃料の増額を請求することができるところ、原告は、これらの事情そのほか本件土地の賃料を不相当とするに至つた事由を主張せず、また、これらを認めるに足りる証拠をも提出しない。

また、賃料を不相当とする事情は、さきに賃料をきめた時以後に発生した事情を指すものであるが、原告は、前回に値上げをした昭和四九年六月に近接した七月三一日現在の本件土地賃料の鑑定に基づき、右六月以後の事情の変更を主張することなく、昭和五〇年四月一日以降の本件土地賃料の増額などを訴求するものであつて、要するに、昭和四九年六月に増額した賃料を再び不相当であると主張するにすぎないものと考えられる。

三つぎに、甲三号証(本件土地賃料の鑑定書)につきつぎの点を附言する。

甲三号証の内容を検討してみると、本件土地賃料を評価するのにあたつて、本件土地に対する租税その他の公課の増額もしくは土地価格の値上り、または比隣の土地の地代を考慮した形跡はなく、さらに、賃料算定の基礎として本件土地価格を求めるのにあたつて、まず「類似の土地の取引事例との比準及び地価公示法による標準地の公示価格(七条通油小路西入土橋町二〇四、四九年一月m2当り二七万円)との均衡を考慮して」いるが、右取引事例の内容が明記されていないので、この点はさておき、右土橋町の土地価格を考慮することには疑問がある。すなわち、同土地が本件土地より約二粁東東北の位置にあり、七条通堀川通の交差する附近で、京都市内中心部に通ずる幹線道路である鳥丸通に近いことは当裁判所に顕著であるし、官報昭和四九年五月一日号外特大五号土地鑑定委員会公示一には、右土橋町の土地につき、一平方メートル当りの価格二七万円(官報昭和五〇年五月一日号外特第三号によると、価格は二四万五、〇〇〇円にさがつている)、土地の利用の現況店舗兼住宅、周辺の土地の利用状況小売店が建ち並ぶ商業地域、前面道路の状況北側一八米舗装府道、国鉄京都駅約三五〇米とされていることも、また、当裁判所に顕著であるし、一方、甲三号証によると、本件土地の位置・近隣の状況につき、国鉄西大路駅の北方約六〇〇米、西大路通(幅員約二七米)に西面して所在、道路沿には店舗・事務所・ガソリンスタンド・モータープールなどが混在し、一部に高層ビルも見られるが、中層又は二階建の家屋が多く一部に空地農地も残つており、市の中心部から西にはづれていて、商業地としての熟成度は未だ低く、背後地は準工業地域で一般住宅と染色等の工場が混在する地域であるとされているのであるから、およそ、土橋町の土地と本件土地とはその位置条件を全く異にするものであり両者を類似の土地と考える余地はなく、土橋町の土地価格に重点をおいて本件土地価格を評価したものとするならば、ひいては、その賃料算定にも重大な影響があることになり、いずれにせよ、甲三号証は本件事案には適切でないというべきである。

四以上の次第で、原告の本訴請求は失当であるから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。 (小北陽三)

目録

京都市下京区七条御所ノ内中町六三番地

一、宅地 四三九、〇四平方メートル

右同所六四番地

一、宅地 七一八、八七平方メートル

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